男性の排尿障害の原因と治療 前立腺肥大症と過活動膀胱
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年齢とともにトイレが近くなったり、夜中におしっこで目覚めるといった排尿にまつわる問題は男女を問わず生じてきます。
今回からは男性の排尿に関するトラブルとその原因、治療法について説明します。
排尿の仕組みと排尿障害の分類
排尿には2つの働きがあります。
おしっこをためる働き(蓄尿)とおしっこを出す働き(尿排出)の二つです。
排尿は膀胱と尿道の協調運動を脳からの指令によりコントロールすることで成り立ちます。
尿を溜める時には膀胱はふくらみ尿道は閉まって尿を漏らさないようします。
尿を出す時は尿道は緩み、膀胱は縮んでおしっこを出します。
脳~神経~膀胱~尿道が上手く連携して排尿は成り立っています。
1. 尿排出症状
おしっこの勢いがない、おしっこが途中で止まる、トイレに行ってもおしっこが出ないといった症状です。
2. 蓄尿症状
おしっこが近い、急におしっこしたくなり我慢できない、夜中に何回もおしっこで目が覚めるといった症状です。
3. 排尿後症状
おしっこをしてもまだおしっこが残っている感じがする(残尿感)です。
排尿障害を来す疾患:前立腺肥大症
前立腺肥大症
前立腺肥大症は55歳以上の男性の5人に1人がなると言われています。
前立腺肥大症の症状
(1)排尿後、まだ尿が残っている感じがする(残尿感)
(2)トイレが近い(頻尿)
(3)尿が途中で途切れる(尿線途絶)
(4)急に、尿意をもよおし、もれそうで我慢できない(尿意切迫感)
(5)尿の勢いが弱い(尿勢低下)
(6)おなかに力を入れないと尿が出ない(腹圧排尿)
(7)夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)
前立腺は膀胱の出口にあります。
男性にだけ存在して精液の一部を作る働きをします。
前立腺肥大症は肥大した前立腺が尿道を圧迫して排尿障害を生じます。
前立腺肥大症による排尿障害は最初は尿が出にくくなり残尿が生じます。
それを放置すると
尿が急に出なくなる(尿閉)
尿が汚れて熱が出る(尿路感染症)
膀胱に石が貯まる(膀胱結石)
腎臓の機能が悪くなる(腎機能障害)
といった合併症を生じてきます。
前立腺肥大症を疑った時に行う検査
問診、触診(経肛門的にします)、尿検査、血液検査、超音波検査などを行います。
前立腺がんも前立腺肥大症同様に排尿障害を来たすため鑑別が必要です。
前立腺肥大症が疑われるときの問診では、「国際前立腺症状スコア(IPSS)」(クリックするとPDFになりプリントできます。)という、質問票がよく使われています。
前立腺肥大症の治療
薬物治療
前立腺の緊張を緩めて尿を通りやすくするα1遮断薬や、男性ホルモンの影響を抑える5α還元酵素阻害薬、蓄尿症状を改善するPDE-5阻害薬があります。
漢方薬では八味地黄丸、牛車腎気丸が使われます。
症状と副作用を考慮のうえで薬剤を選択しますが、初期投与としてはα1遮断薬を選ぶことが多いです。
手術療法
薬物療法が無効の時に行います。
いずれも尿道から内視鏡を入れて行う治療で、「TURP(経尿道的前立腺切除術)」「TUEB(経尿道的前立腺核出切除術)」「PVP(光選択的前立腺レーザー蒸散術)」があります。
私も内科医ですので各手術のメリット・デメリットは分かりません。
保存治療
保存治療には、生活指導、経過観察、健康食品、バルーンカテーテル留置などがあります。
水分を摂りすぎない、コーヒーやアルコールを飲みすぎない、刺激性食物の制限、便通の調節、適度な運動、長時間の座位や下半身の冷えを避けるなどの生活上の注意は、前立腺肥大症の症状緩和に役立ちます。
健康食品については、ビタミン、ミネラル、サプリメント、ノコギリヤシなど、前立腺肥大症に有効と言われるものがありますが、科学的には有効性は示されていません。
バルーンカテーテル留置が必要な状態は本来は手術適応です。
全身状態などにより手術が選択できない場合や尿閉により緊急排尿が必要な場合に留置を行います。
前立腺肥大症の人はPL顆粒の併用には注意
感冒薬のPL顆粒は坑ヒスタミン薬が入っています。
坑ヒスタミン薬は便秘・口渇・尿閉といった抗コリン作用が起きることがあります。
このため家族に処方されたPL顆粒を風邪だからといって使い、急に「おしっこが出ない」と来院する人がたまにいます。
PL顆粒は前立腺肥大症の人には禁忌です。
PL顆粒は最近OTC医薬品となったため尿閉を来たす人が増えるかもしれません。
また、この後で説明する過活動膀胱には抗コリン薬を処方することがありますが、前立腺肥大症を悪化させます。
気をつけましょう。
排尿障害を来す疾患:過活動膀胱
過活動膀胱とは
・昼間頻尿 – 日中に8回以上尿意を覚えてトイレへ行く
・夜間頻尿 – 就寝中に1回以上尿意を覚えて目が覚める
・尿意切迫感 – 急に尿意を覚える
・切迫尿失禁 – 急な尿意を我慢できず失禁してしまう
などの症状を示す病気のことです。
人がトイレへ行く回数は、日中で5~7回、寝ている間は0回が正常と言われています。
寝ている間は0回となると加齢とともに多数の人が過活動膀胱に罹患していることになるような気がします。
実際、日本における 2002 年の全国調査で 40 歳以上の 8 人に 1 人 がこの症状があると いうことがわかりました。
また過活動膀胱の患者さんの数は年齢とともに増えて 80 代以上 では 40%近くに達します。
過活動膀胱の原因
男性と女性では原因が異なる場合があります。
今回は男性の原因について書きます。
中枢性過活動膀胱(神経のトラブルが原因)
・脳幹部橋より上位の中枢の障害
脳血管障害、パーキンソン病、多系統萎縮症、認知症、脳腫瘍、脳外傷、脳炎、髄膜炎、など
・脊髄の障害
脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、脊髄腫瘍、頸椎症、後縦靱帯骨化症、脊柱管狭窄症、脊髄血管障害、脊髄炎、二分脊椎 、など
いずれも原疾患の治療を行わないと過活動膀胱の症状も改善しません。
末梢型過活動膀胱
- 前立腺肥大症
- 加齢による膀胱機能の変化
- 明らかな原因疾患のないもの(特発性)
加齢によるものと原因不明(特発性)によるものが過活動膀胱の原因としては最多です。
前立腺肥大症の患者さんの50~70%が過活動膀胱を合併します。
排尿のたびに、出にくい尿をなんとか出そうと膀胱に負担がかかります。
これが繰り返すと、膀胱の筋肉が異常をきたして少しの刺激にも過敏な反応をするようになり、過活動膀胱が起きます。
過活動膀胱の診断
問診と尿検査、(更に詳しく検査が必要と判断した場合)腹部エコーなどを行います。
問診では過活動膀胱が疑われるときは、「過活動膀胱症状質問票(OABSS)」という質問票がよく使われています。(クリックするとPDFになりプリントできます。)
過活動膀胱の治療
男性の過活動膀胱の治療には生活習慣の改善と内服治療が主となります。
生活習慣の改善
1. 過剰な水分摂取の制限(多尿に対して)
多尿があれば、水分を過剰に摂らないようにしましょう。
但し、頻尿により水分を控える方もいます。
頻尿でも尿量が少ない人には(頻尿の薬を使用の上で)脱水にならないように水分摂取を増やすようにします。
2. 夕方(15:00時)以降の水分摂取の変更(主に夜間多尿に対して)
就寝前の飲水や、夕方以降に摂っていた水分(夜のお茶やコーヒー、ミカンなどの果物)は15:00以前に摂るようにしましょう。
高齢者は口が渇きやすく、夜中に起きた時、コップ1杯の水を飲んだりします。
一口で口を潤す程度にしましょう。
3. コーヒーや紅茶、緑茶、アルコールの制限(多尿あるいは夜間多尿に対して)
カフェインやアルコールには利尿作用があります。
夜これらを含む水分を摂取すると、夜間多尿になりやすくなります。
4. 便秘の解除(尿失禁などの蓄尿症状、排尿症状に対して)
(特に)高齢者では、便が直腸内に停滞すると、尿失禁が生じたり、排尿困難になったりすることがあります。
便秘に注意しましょう。
薬物治療
男性の過活動膀胱では前立腺肥大症の合併が多いため、まずは前立腺肥大症の薬物治療から行うことが多いです。
効果不十分や無効な場合は、β3アドレナリン作動薬(ベタニス)や抗コリン薬を使います。
β3アドレナリン作動薬は抗コリン薬より効果はやや弱い印象ですが、口渇・便秘といった抗コリン薬の副作用がなく、使いやすい第一選択薬としています。
抗コリン薬を使用する場合は、多種多様な抗コリン薬が発売されています。
1日1回製剤、1日2回製剤、貼付剤等各社工夫しているため、患者さんの最も困る症状に応じて服用時間や量、剤形を考えながら処方します。
但し、抗コリン薬はアルツハイマー型認知症に対しては悪化する方向へ作用します。
この場合は先ほどのβ3アドレナリン作動薬や漢方薬を試していきます。
頻尿・尿漏れの治療で用いることが多い漢方薬
八味地黄丸 (はちみじおうがん)
体力中等度以下で、疲れやすく、四肢が冷えやすく、尿量減少又は多尿な方の排尿困難、頻尿など
牛車腎気丸 (ごしゃじんきがん)
体力中等度以下で、疲れやすく胃腸障害がなく、尿量減少又は多尿な方の排尿困難、頻尿など
猪苓湯 (ちょれいとう)
体力に関わらず使用でき、排尿異常がある方の排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿など
清心子飲 (せいしんれんしいん)
体力中等度以下で、胃腸が弱く、全身倦怠感がある方の残尿感、頻尿、排尿痛など
小建中湯 (しょうけんちゅうとう)
体力虚弱で、疲労しやすく、頻尿および多尿をなどを伴う方の小児虚弱体質、小児夜尿症
おしっこで困る時はお医者さんに相談しましょう
- 夜中に何度もトイレで目が覚めてしまう。
- おしっこに行ったのにまたすぐに行きたくなる。
- おしっこが出にくくなってきた。
といった症状があれば相談しましょう。
完治は難しくても薬で改善することができます。
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