ストレス関連疾患(主に不眠症、不安障害)と漢方治療
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こんにちは!
三重県松阪市の医療と介護の専門家、
西井医院の院長( @nishii.hospital)です。
ストレスが原因の病気は、内科領域だけでなく、外科や産婦人科から歯科・口腔外科領域まで多岐に渡ります。
すべてがストレスが一番の原因ではありませんが、治療に心身医学的な配慮が必要となります。
漢方薬を使った向精神薬の離脱・減量
不安や不眠の診察では、ベンゾジアゼピン系を中心とした抗不安薬や抗うつ薬の使用が(以前よりは控えられるようになりましたが)一般的です。
ただし、これらの薬剤は長期に渡って使用すると薬物依存という問題を生じやすくなります。
また患者さんも長期投与は望まないことが多いですし、国も診療報酬によりベンゾジアゼピン系薬物の長期投与を抑制する方向にあります。
2018年度診療報酬改定では、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬等の長期処方を適正化するため、「向精神薬を処方する場合の処方料・処方箋料に係る要件」が見直されました。
具体的には、不安・不眠に対しベンゾジアゼピン系の薬剤を12か月以上連続して同一の用法・用量で処方されている場合には、処方料が29点(通常42点)、処方箋料が40点(同68点)に減額されます。
そこで、向精神薬の離脱や減量が治療のポイントになります。
漢方薬は副作用が少なく、長期投与による薬物依存性もありません。
そのため向精神薬に抵抗感を持つ患者さんにも向いています。
漢方薬の基本的な考え方
漢方医学の基本構造
漢方治療を特徴づけるのは、第一に「気」の概念と「陰陽論」です。
第二に治療薬剤として「漢方方剤」を用いることです。
これを詳しく書くと本一冊書けてしまうので、ここでは「気」について簡単に説明します。
漢方医学における「気」の概念
「気」とは地球環境に普遍的に存在する目に見えないエネルギーのことです。
生命活動を営むすべての生物は「気」が閉鎖空間を形成したものと考えられています。
この「気」の思想は、例えば天気、空気、電気、生気、病気などの言葉としても、日常生活に根差しています。
「気」は人間を人間として存在させている基本的要素で、心の動きも、身体の構造と機能もすべて「気」によって支えられていると考えます。
心と身体を分けてとらえない考え方を「心身一如(しんしんいちにょ)」と呼び、心身医学の基本として、医療哲学としても重要な部分です。
漢方医学では、生体の変調を気の量あるいは流れの障害としてとらえています。
この「気」の変調を「気うつ」、「気逆」、「気虚」に区分しています。
気の変調とその症状
気うつ:気の閉塞(停滞)している状態
症状は、咽頭の異常感覚(詰まる、つかえるなど)、胸が詰まる・重苦しい、腹部の閉塞(イレウス・放屁)など
気逆:気が上昇(逆流)している状態
いわゆるのぼせ症状です。
緊張したり熱いものを食べると赤くのぼせる運動型と、いつも赤くのぼせる固定型があります。
気虚:生命活動の衰え
だるい、疲れる、気力が出ない、食欲がないなどが主な症状です。
不眠と漢方
不眠の種類
不眠は様々な疾患のの代表的な訴えとして、診療科を問わず普段の診察で遭遇します。
不眠には入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠感欠如などの種類があります。
それによって対応も異なります。
睡眠薬から漢方薬へ
現在の不眠に対する治療は、短時間あるいは超短時間の睡眠薬が第一選択となることが多いです。
しかしながら現在主流のベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系ともに、薬剤耐性による依存形成の問題が指摘されています。
そこで不眠治療における漢方薬の役割が見直されています。
不眠を改善する漢方薬として用いられるものの例
- 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
- 抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
- 四逆散(しぎゃくさん)
- 加味帰脾湯(かみきひとう)
不安と漢方
不安と不安障害
不安(anxiety)とは、イライラした落ち着きのない、安定性を欠く感情のことです。
その本質は、特定の事物や事象に対する恐怖に対して、漠然とした対象の無い恐れであると言われています。
不安では心配や緊張感等の主観的な感情とともに、自律神経系の興奮による動悸、血圧変動、呼吸促拍などの症状を多く伴うためか、”自律神経失調症”や”更年期障害”と診断されることが多いです。
病的な不安(不安障害)を些細な原因で起こること、原因に比べて不安の程度が強いこと、持続時間が長いなどにより、健常レベルの不安と区別されます。
不安の症状
- 精神症状:恐怖感(自制を失いそうな感覚、死んでしまいそうな感じ等)、集中困難、イライラ感、緊張感、心配、気が休まらない
- 身体症状:不眠、易疲労感、めまい、口渇、発汗、呼吸困難、動悸、胸部絞扼感、四肢の冷感・しびれ、振戦、悪心、下痢、頻尿など
不安障害の種類
- パニック障害
- 全般性不安障害
- 社会不安障害
- PTSD
不安障害の治療
治療の第一は、薬物療法です。
向精神薬、特に抗不安薬がよく用いられています。
さらに心身医学療法として自律訓練法や行動療法を行います。
抗不安薬の大部分はベンゾジアゼピン系の薬物です。
なので、薬物依存性の問題が残ります。
不安障害における漢方治療
不安障害は漢方薬のみで治療できることが少なくありません。
例えば、
- 比較的体力があり、不安や焦燥感が強ければ「柴胡加竜骨牡蠣湯」
- より体力が低下している人は「四逆散」「柴胡桂枝湯」「柴胡桂枝乾姜湯」
- 焦燥感が著明で、眼瞼の痙攣や手足の震え、チック症状などがある人は「抑肝散」「抑肝散加陳皮半夏」
- 抑うつ気分や不安、のどの詰まり感の伴う人は「半夏厚朴湯」「柴朴湯」
- 不安、抑うつに加え、消化機能の低下を伴う人は「四君子湯」「六君子湯」「補中益気湯」
いずれの薬もベンゾジアゼピン系の抗不安薬(デパスなど)のような即効性はありません。
毎日定期的に服用していると2週間程度で徐々に効果が現れてきます。
その上で、不安症状が十分改善しない場合は漢方薬を切り替える場合もあります。
何でも漢方薬で治療ができるわけではありません!
まとめ
- ベンゾジアゼピン系を中心とした抗不安薬や抗うつ薬の使用は、長期に渡って使用すると薬物依存という問題を生じやすくなる。
- 漢方薬は副作用が少なく、長期投与による薬物依存性もない。
- 不眠治療における漢方薬の役割が見直されている。
- 不安障害は漢方薬のみで治療できることが少なくない。
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