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HPVワクチンが8年半ぶりに積極勧奨になりました!

 
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1974年生まれ。2000年三重大学医学部卒業。三重県松阪市で内科クリニックを10年前からしています。診療所に併設して有料老人ホーム、認知症対応型グループホームもあり、自宅生活の方も含め在宅医療も行っています。 また、インスタグラムでフォロワー1万人超のアカウントを2つ運営するインスタグラマーでもあります。 地域のかかりつけ医として気軽になんでも相談してください。医療と介護の両面から一緒に考えます。
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厚生労働省は2021年11月26日付の健康局長通知で、HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの「積極勧奨差し控え」を廃止しました。

およそ8年半続いた「定期接種だが積極的に勧奨はしない」という責任逃れの異常事態にようやく終止符が打たれました。

この間、HPVワクチンの存在自体を知らず、無料の公費助成期間を逃した女性(1997年度生まれ~2005年度生まれ)には、救済措置として「キャッチアップ接種」が2022年4月より3年間実施される見込みです。

 

HPVは子宮頸がん「のみ」の原因ウイルスではない

HPVは、普通に性交渉の経験があれば、一生のうちに男女とも8割以上が感染するありふれたウイルスです。

子宮頸がん「のみ」の原因ウイルスと誤解されていますが、中咽頭がんや肛門がん、男性の陰茎がんを引き起こす原因ウイルスでもあります。

このうち、“のどちんこ”や扁桃、舌の付け根など、口を大きく開けたときの突き当たり周辺に発症する中咽頭がんは、男女比がおよそ3対1と、圧倒的に男性に多いです。

これまで大量飲酒など生活習慣が原因とされてきましたが、近年、若い世代を中心にHPVの持続感染を原因とする症例が増えています。

国内の多施設共同研究によると、中咽頭がんのおよそ半数はHPV陽性がんで、子宮頸がんのハイリスクウイルスと同じHPV16感染が9割を占めていました。

 

現在国内で接種できるHPVワクチン

現在国内で接種できる3種類のHPVワクチン(2価、4価、9価)は、全てHPV16に対応しています。

公費接種できるHPVワクチンには、がん化の原因であるハイリスクHPV2種類に対応する2価ワクチンと、ハイリスク2種類+低リスクHPV2種類(尖圭コンジローマ:性器イボを誘発する)の4種類のHPVに対応する4価ワクチンがあります。

価数
ワクチン名
定期接種(対象)
または任意接種
予防するVPD(ワクチンで防げる病気)対象
2価
サーバリックス
定期接種(小学校6年~高校1年の女子)70%の子宮頸がん(16、18型)などのヒトパピローマウイルス感染症9歳以上の女子
4価
ガーダシル
定期接種(小学校6年~高校1年の女子)70%の子宮頸がん・肛門がん (16、18型) 、尖圭コンジローマ(6、11型) などのヒトパピローマウイルス感染症9歳以上の男女
9価
シルガード9
任意接種90%の子宮頸がん(16、18、31、33、45、52、58型)、尖圭コンジローマ(6型、11型) などのヒトパピローマウイルス感染症9歳以上の女子

日本では、サーバリックスが2009年12月に、ガーダシルが2011年8月に発売され、2013年度から定期接種になりました。9価シルガード9は2021年2月に発売され、現在、任意接種です。

いずれのワクチンも初めての性行為の前に接種を始めることが望ましく、半年間で3回、筋肉注射で接種します。

このうち公費助成で接種可能なワクチンは2価と4価で、4価は20年12月に9歳以上の男性に対する適応を取得しました。

HPV感染は男女間で感染を繰り返すため、男女にワクチン接種をすることで感染の広がりを抑えることができます。

男性のワクチン接種の目的は、男性本人のHPV感染による病気の予防とともに、自分が感染源とならないことで将来のパートナーを子宮頸がんなどのHPV感染症から守ることがあります。

実際に男子へのワクチン接種は多くの国で推奨され、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど20か国以上の国で公費接種が行われています。

この機会に、男性への公的助成を検討してもらえるとVPD根絶のためにありがたいと思います。

 

HPVワクチンの子宮頸がん予防効果

スウェーデンの報告では、2006~17年にHPVワクチン接種を受けた10~30歳の女性167万2983人を追跡し、4価ワクチンの接種とその後の子宮頸がんの発症リスクを評価しています。

対象者のうち、少なくともワクチンを1回接種した女性は52万7821人で、43万8939人が17歳までにワクチンを接種していました。

およそ11年の追跡期間中、「ワクチン接種群」で子宮頸がんと診断された女性は19人、「ワクチン非接種群」の114万5112人中では同538人でした。

年齢、教育レベル、世帯収入、母親のがん病歴などの影響を調整し発症率を比較した結果、ワクチン接種群の子宮頸がん発症リスクは非接種群より63%低下していた。

さらに17歳未満の接種群に限ると、非接種群より88%も低下していました

17~30歳では53%の低下でした。

つまり、早いうちに接種するほど子宮頸がんの予防効果が期待できます。

ただし、ワクチンに含まれていないタイプのウイルスによる子宮頸がんもありますので、必ず子宮がん検診も受けましょう。

検診を受ける率は、欧米では約80%ですが、日本ではなんと約20%とたいへん低いのが問題です。

ワクチンを受けた方でも20歳過ぎたらすべての女性は子宮がん検診を受けることが大切です。

 

HPVワクチンに関しては、接種から数年で検証できるHPV感染と、感染により細胞ががん化の手前まで変化する「高度異形成」の抑制効果が証明されてきました。

しかし、子宮頸がんの発症には感染から十数年かかるため、“本命”の発症リスクを抑制できるか否かを検証することが難しかったのです。

つまり本当に子宮頸がん発症予防確認までに時間が必要でした。

ようやく子宮頸がん予防効果が示されたことで、世界の子宮頸がん撲滅運動が盛り上がることが期待されます。

なお、スウェーデンのHPVワクチン接種率は、10歳以上の男子・女子を対象とした集団接種プログラムが奏功し、2019年12月時点で8割を超えています。一方、日本のそれは限りなくゼロに近いです。

 

ワクチンで前がん病変自体の発症を未然に防ぐことが重要

近年は20代後半~30代で子宮頸がんの発症が増加しています。

初産年齢のピークとも重なっており、初めての妊婦検診で子宮頸がんが発見されるというつらい話が後を絶ちません。

完全にがん化する前の「前がん病変」で見つかれば、子宮を温存した形の手術が可能です。

子宮頸部を円すい形に切り取る手術ですが、術後に妊娠すると、赤ちゃんが出産予定日より数ヵ月早く未熟なまま生まれる早産リスクが約3倍に上昇します。

早産リスク以外にも、低出生体重児出産リスクや流産のリスクも上昇します。

それを考えると子宮頸がん検診も大切ですが、何よりワクチンで前がん病変自体の発症を未然に防ぐことが重要です。

がんの予防や検診の効果が論じられるときは、「その手段がどれだけ死亡率を下げるか」に焦点が当てられるがちですが、子宮頸がんに関しては死亡率ではなく、女性の大切なライフイベントである妊娠・出産の安全を守るという視点の議論も必要かと考えます。

 

キャッチアップ接種の対象外(1996年度以前生まれ)の方は

このワクチンはすでに感染している16型、18型のHPVを排除する効果はありませんが、感染している16型、18型のHPVが一度消失した後の再感染を防ぐことはできます。

そのため、15歳~45歳の女性へのキャッチアップ(追いかけ)接種が推奨されています。

いずれも自費となりますが、1回あたり約1万5千円~2万円です。(病院・クリニックにより費用が異なりますので、接種前にご確認ください。)

なお、9価のHPVワクチンの場合は、年齢にかかわらず自費で、全3回で約10万円となります。

なお、授乳期間は接種可能ですが、妊娠中は接種を控えてください。

院長
院長
当院でもHPVワクチン接種を行っています。

接種を希望される方は、電話又は直接来院し、予約をお願いします。

 

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