治る(可能性がある)認知症を知ってますか? 正常圧水頭症について
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こんにちは!
三重県松阪市の医療と介護の専門家、
西井医院の院長( @nishii.hospital)です。
前回は「慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)」についてでした。
今回は正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう)についてです。
正常圧水頭症は通常高齢者におこり、認知症のある患者の5~10%に潜在的に認められるといわれる意外とポピュラーな病気です。
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正常圧水頭症とは
まず水頭症について解説します。
水頭症とは、脳と脊髄の表面(クモ膜下腔)に循環している脳脊髄液が過剰に貯留し、主に脳室が拡大する病態をいいます。
水頭症は2つのタイプがあります!
- 非交通性水頭症:小児に多いです。
脳圧が高くなり、頭痛・嘔吐・意識障害などの症状がでますが、治療できます。
- 交通性水頭症:成人に多いです。
必ずしも脳圧が高くならない(正常範囲:180mmH2O以下)場合があり、歩行障害・認知症・尿失禁が主な症状としてあらわれます。
原因不明の特発性正常圧水頭症と先行する病気がある続発性正常圧水頭症に分けられます。
今回は特発性正常圧水頭症についてです。
特発性正常圧水頭症が疑われる患者は現在30万人以上います。
アルツハイマー型認知症と比べると少ない割合ですが、決して無視できる患者数ではありません。
ただし、特発性正常圧水頭症という病気はこれまであまり注目されていません。
そして、診断・治療されないままに「高齢だから」とか「アルツハイマー型認知症」だからとされて放置されていることも多いです。
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正常圧水頭症の症状
大きく分けて3つの徴候があります。
正常圧水頭症の三徴候とは
- 歩行障害
- 認知症
- 尿失禁
この三徴候の症状の程度をスコア化したものが「iNPH重症度スコア」です。
歩行障害 | 何らかの歩行障害があるか どの程度の歩行障害なのか |
0 | 正常 |
1 | ふらつき、歩行障害の自覚のみ |
2 | 歩行障害を認めるが補助器具(杖、手すり、歩行器)なしで自立歩行可能 |
3 | 補助器具や介助がなければ歩行不能 |
4 | 歩行不能 |
認知症 | 認知症があるか どの程度の認知症なのか |
0 | 正常 |
1 | 注意・記憶障害の自覚のみ |
2 | 注意・記憶障害を認めるが、時間・場所の見当識は良好 |
3 | 時間・場所の見当識障害を認める |
4 | 状況に対する見当識は全くない。または意味ある会話が成立しない |
尿失禁 | 尿失禁があるか どの程度の尿失禁か |
0 | 正常 |
1 | 頻尿または尿意切迫 |
2 | 時折の失禁(1~3回/週)以上 |
3 | 頻回の失禁(1回/日)以上 |
4 | 膀胱機能のコントロールがほとんどまたは全く不能 |
引用:http://www.inph.jp/shindan_001.html
正常圧水頭症による歩行障害
歩行障害が正常圧水頭症の初期症状として現れることが多いです。
正常圧水頭症の主な歩行障害
- 小刻み歩行(小股でよちよち歩く)
- 開脚歩行(少し足が開き気味で歩く)
- すり足歩行(足が上がらない状態)
- 不安定な歩行(特に転回のとき)
- 転倒する
- 第一歩が出ない(歩きだせない)
- 突進現象(うまく止まることができない)
しかし、歩行障害は正常圧水頭症の3徴候のうち最も改善の得られる症状です。
手術前後の歩行の状態を動画で見てみましょう。
正常圧水頭症による認知症
アルツハイマー型認知症と違い、怒りっぽくなったりしません。
どちらかというと気力低下しているような感じになります。
具体的には、
正常圧水頭症による認知症症状
- 集中力、意欲・自発性が低下
- 趣味などをしなくなる
- 呼びかけに対して反応が悪くなる
- 一日中ボーっとしている
- 物忘れが次第に強くなる
正常圧水頭症による尿失禁
トイレに間に合わなくなったり、我慢できる時間が短くなったりします。
歩行障害を合併するため、うまくトイレまで歩けずに尿失禁となることもあります。
- 頻尿(トイレが非常に近くなります)
- 尿意切迫(我慢できる時間が非常に短くなります)
- 尿失禁
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正常圧水頭症の診断
元々、正常圧水頭症には特徴的な症状がありません。
そこで先ほど説明した三徴候とCTやMRIといった画像診断を組み合わせで診断していきます。
診察を受ける場合は脳神経内科や脳神経外科で受けると後々の治療も考えるとよいでしょう。
最近は「認知症外来」を標榜している病院も増えているので、そこで診察してもらうのもよいかと思います。
特発性正常圧水頭症の症状があり、画像診断にて脳室の拡大が認められると、この後は髄液循環障害の有無を検査します。
髄液循環障害の検査にはいくつかの方法があります。
いずれも侵襲的な検査で入院が必要となりますので詳細は割愛しますが、基本的には脳脊髄液を少量排除して症状の改善具合を観察します。
特発性正常圧水頭症の治療
特発性正常圧水頭症は、髄液の流れを良くする治療によって、症状が改善します。この手術を髄液シャント術といい、脳神経外科で施されます。
脳室腹腔短絡術(VPシャント手術)という頭の中の髄液をお腹(腹腔)に流す治療がもっともよく行われます。
VPシャント手術は、頭の脳室からお腹の中まで細いチューブを通す簡単な手術です。
まとめ
- 手術により症状が改善する認知症として正常圧水頭症があります。
- 正常圧水頭症の三徴候は、歩行障害、認知症、尿失禁です。
- 診断は症状だけでは確定できないので、画像診断、髄液循環障害検査が必要です。
- 治療は髄液シャント術を脳神経外科で行います。
次回は薬剤性認知症についてです。
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